有限会社ワタナベエレクトロニクス

資源大国のオーストラリアで、大規模停電や電気代の異常な高騰といった「電力危機」が起きている。「供給が不安定だ」とやり玉に挙げられたのは風力などの再生可能エネルギー業界だ。風力発電の業者などは「巻き返しを図る石炭業界にぬれぎぬを着せられた」と反論する。電力小売りの自由化も背景にあり、消費者は悲鳴を上げている。



 ■「石炭派」再生エネに矛先

 日本の2・6倍の広さを持つ南オーストラリア州で9月末、前代未聞の「全州停電」が起きた。嵐による豪雨と暴風、落雷で23カ所の送電塔が倒れ、隣州から送電するインターコネクターが停止した。空港や道路、病院などが混乱。復旧にも数日かかり、州内の「電力インフラのもろさ」に批判が集中した。

 同州は日照時間が長くて強風も吹くため、太陽光や風力による発電が国内で最も盛んだ。発生直後、「化石エネルギー派」で知られるジョイス副首相兼農業・水資源相は「(天候の影響を受けやすい)再生エネルギーに頼りすぎているせいだ」と発言した。

 同州では、停電の2カ月前にも異常事態が起きていた。電力の小売りが自由化された豪州には、発電業者と小売業者が電力を売買する卸電力市場の「全国電力市場」がある。その市場で、南オーストラリア州の電力価格が7月、通常より約150倍も高い1メガワット時当たり1万4千豪ドル(約110万円)になった。州政府は、停止中の火力発電所に操業を依頼した。

 高騰の原因をめぐって矛先が向けられたのも、再生可能エネルギー業界だった。「石炭火力発電がほとんどだった時代は電気代が安かった。温室効果ガスの削減を重視するあまり、供給が不安定な再生エネ業界に高い補助金をつぎ込んだせいだ」とする一部専門家の声が盛んに報じられた。

 豪州の世帯当たりの電気代は元々高く年間15万〜20万円ほどだ。資源系コンサルタント会社が世界90カ国と豪州各州の11年の電気代を比較したところ、デンマーク、ドイツに次いで、3〜6位を南オーストラリア州など豪州の4州が占めた。

 さらに7月の高騰後、買い手だった複数の小売り大手が、同州の電気代値上げを発表。世帯当たりで年2万円前後上がるとみられ、消費者から悲鳴が上がっている。同州商工会議所は8月、「高額な電力卸売価格が家庭や経済に与える影響を考慮する」との声明を出し、州政府に調査を求めた。影響はいずれ他州へも及ぶとの懸念もある。

 各州首相らで構成する豪州エネルギー評議会では、「電気代が高すぎてビジネスや家計の負担になっている」とエネルギー政策の見直しを求める声が続出しているという。



 ■市場独占・政治状況も要因

 南オーストラリア州の州都アデレードから車で2時間余りのスノータウン地区。なだらかに続く丘陵で羊の群れが草を食べる上を約140基の風力タービンが回っている。

 「反再生可能エネルギー勢力にぬれぎぬを着せられた。電力危機を利用して、石炭業界が巻き返しを狙っている」。同地区で風力発電施設を運営するトラストパワー社(本社・ニュージーランド)のロンテオ・バンザイル開発部長は、怒りをあらわにする。

 電力業界に詳しい非営利団体・気候変動委員会のアンドリュー・ストック委員によると、豪州の電気代が高い主な理由は、国土が広大で送配電のインフラ整備費がかさむためだ。「電気代の大半は電線や管の費用だ」という。大規模停電についても「風力発電は原因ではなく、逆に復旧作業を助けた」という。

 南オーストラリア州での7月の電気代高騰も、複数の要因が重なったためとみられる。7月は真冬で暖房の需要がピークになるうえ、隣州と電力網をつなぐ接続業者が事業拡大工事で操業を休止。さらに、別の火力発電所が天然ガスを輸出向けに回すため、一時停止した。州内で約8割の発電容量を持つ2業者が市場を独占したことで、結果的に高騰につながった可能性が高いとされる。

 ストック委員は「安い石炭火力に頼ってきたためにクリーンエネルギー時代への対応が遅れている」とも指摘する。豪州の1人当たりの二酸化炭素排出量は世界的に見ても多く、政府の補助金などで再生エネへの移行が進む。だが政府によると、13年度の全発電量に占める割合は石炭が約61%、石油・天然ガスが約24%なのに対し水力は約7%、風力は約4%にとどまる。

 この6年で5人も首相が代わる政治状況で、長期的な政策が立てられていない、との指摘もある。

 最大野党・労働党の影の内閣で気候変動・エネルギー相を務めるマーク・バトラー氏は「少数の電力業者による市場独占が続けば、電気代も上がる一方だが、政権が安定しないと外資が入ってこない。長期的なエネルギー政策のためには、保守連合と労働党の同意が必要だ」と話す。

2016年11月17日 朝日新聞より引用